アスコルビン酸生合成の研究-石川&丸田グループ

 以下、丸田が忘備録的にテキトーに書いていますので、誤りや抜け落ちがあったらご容赦ください。なお、当研究室および共同研究による成果(リファレンス)は赤字で示しています。

 最終更新:2021年8月(一部を加筆・改正し、進化の部分を書き足しました)。


最近のテーマ一覧

 現在(2021年時点)、石川&丸田グループによりアスコルビン酸生合成の分子制御機構に関する研究が進められています。石川グループは、アスコルビン酸生合成の分子機構や普遍性、制御機構についてシロイヌナズナやトマト、コケ植物、ユーグレナなどを用いて幅広く研究を展開しています。丸田グループは、シロイヌナズナ主経路の光制御に特にフォーカスしています。

 最近の研究テーマは以下の通りです。

・律速酵素VTC2/GPPの発現および活性制御機構
・生合成制御因子VTC3の機能解析
・光合成を介したアスコルビン酸生合成の調節機構
・トマト果実におけるガラクチュロン酸経路の可能性
・蘚類および苔類におけるアスコルビン酸生合成
・微細藻類ユーグレナのアスコルビン酸調節機構
・etc

 以下が研究内容の背景や概要になります。

アスコルビン酸生合成の概要

 私たちヒトはアスコルビン酸を合成できません。そのためか、すべての動物がアスコルビン酸を合成できないと誤解している人も多いのですが、実は、霊長類や一部の動物種を除き、多くの動物(イヌやネコも)は自ら合成する能力を保持しています。つまり、アスコルビン酸を作れない動物の方が例外と言えます。なぜアスコルビン酸合成能力を欠失したのかは未だ不明ですが、そのような動物の全ては食餌からアスコルビン酸を摂取し、吸収することができます。その主たる摂取源は野菜や果実などの植物資源です。植物はとても高濃度にアスコルビン酸を蓄積します。

 動物のアスコルビン酸経路は古くから明らかになっていました。上図(右側)の青の経路です。とはいえ、全ての構成酵素が明確に同定されているわけではありません。動物経路では、ヘキソースリン酸であるD-グルコース-6リン酸からD-グルクロン酸やD-グロン酸を介して合成されます。そして、ヘキソースからアスコルビン酸への変換過程で炭素鎖の逆転が生じます。一方、植物の経路は長らく未解明であり、「炭素鎖の逆転が起こる!いや起こらない!」という論争もあったり、いろいろな経路が提唱されている状態でした。そんな中、1998年にイギリスのNick Smirnoffたちは、L-ガラクトース処理が植物のアスコルビン酸含量を大きく増加させることを発見し、それを皮切りに炭素鎖の逆転が起こらない新規経路を考案しました。それが上図(左側)の緑の経路です。そして、この経路への関与が予期される酵素活性の検出や、D-マンノースから炭素鎖の逆転を伴わずにアスコルビン酸が合成されることなどを実証し、アスコルビン酸生合成経路として植物で機能的であることを初めて示しました(Wheeler et al., 1998, Nature)。この経路はD-マンノースやL-ガラクトースの誘導体を介することから、D-マンノース/L-ガラクトース経路(D-Man/L-Gal経路)またはSmirnoff経路などと呼ばれます。その直後、既に単離されていたアスコルビン酸欠乏変異株(vtc)のうち、vtc1の原因遺伝子がGDP-D-マンノースピロホスホリラーゼ(GMP)をコードすることが報告され(Conklin et al., PNAS, 1999)、その遺伝学的重要性が示されました(詳細は下記)。

 上の図に示す通り、動物と植物の経路はヘキソースリン酸を出発物質とする点で共通していますが、経路自体はまったく異なります。なかでも特に注目すべき点は最終段階です。動物経路の最終段階を触媒するのはL-グロノ-1,4-ラクトン脱水素酵素(GULO)であり、小胞体膜に存在します。ちなみに、ヒトなどの霊長類や一部の動物は進化過程でGULO遺伝子を欠失したために、自らアスコルビン酸を合成することができなくなりました。GULOの電子受容体は酸素であり、反応副産物として活性酸素の一種であるH2O2を生成します。これがGULO酵素の進化過程における欠失イベントの選択圧になったという考え方(つまり、アスコルビン酸の合成が酸化ストレスを伴ってしまうため、この酵素が邪魔で退化したという考え方)もあるようですが、実際のところはよく分かっていません。なぜなら、ほとんどの動物が今もなおGULOを使ってアスコルビン酸を合成しているからです。一方、植物経路ではL-ガラクトノ-1,4-ラクトン脱水素酵素(GLDH)が最終段階を触媒します。この酵素はミトコンドリアの内膜に局在し、シトクロムcを電子受容体として用います。そのため、植物はH2O2生成を伴わずに言わば「安全」にアスコルビン酸を合成することができます。この特性は植物がアスコルビン酸を抗酸化剤として高濃度に蓄積する上でとても重要だったと考えられています。ただ、植物の祖先も最初はGULOを使っていたようです。植物は進化過程でGULOをGLDHに置き換えて、生合成の安全性を担保したのでしょう。このあたりの詳細に関しては、過去の研究成果記事および論文(→コチラ, Wheeler et al., 2015, eLife)を参照ください。

 動物と植物の性質を合わせ持つミドリムシ(ユーグレナ)は、また少し異なる経路(ガラクチュロン酸経路)でアスコルビン酸を合成します(上図の赤の経路)。この経路では、動物経路のように炭素鎖の逆転が起こりますが、最終段階を触媒するのは植物経路と同じGLDHです。石川グループによって、D-ガラクチュロン酸のL-ガラクトン酸への変換を触媒する還元酵素(GalUAR)と、その後のL-ガラクトノ-1,4-ラクトンへの変換酵素ALaseが同定されており(Ishikawa et al., 2006, Biosci. Biotechnol. Biochem.Ishikawa et al., 2008, J. Biol. Chem.)、ALaseノックダウン株の解析から、この経路がユーグレナのアスコルビン酸生合成および生育に不可欠であることが証明されています(Ishikawa et al., 2008, J. Biol. Chem.)。また、このユーグレナ経路に類似した仕組みが植物で機能的である可能性も示唆されています(下記参照)。

 

D-マンノース/L-ガラクトース経路(Smirnoff経路)の分子機構

 植物アスコルビン酸生合成の主経路であるSmirnoff経路は、下図に示す8段階の酵素反応から構成されます(Wheeler et al., 1998, Nature。すなわち、ホスホマンノースイソメラーゼ(PMI)、ホスホマンノムターゼ(PMM)、GDP-D-マンノースピロホスホリラーゼ(GMP)、GDP-D-マンノース-3′,5′-エピメラーゼ(GME)、GDP-L-ガラクトースホスホリラーゼ(GGP)、L-ガラクトース-1リン酸ホスファターゼ(GPP)、L-ガラクトース脱水素酵素(GDH)およびL-ガラクトノ-1,4-ラクトン脱水素酵素(GLDH)からなる経路です。この経路が主要なアスコルビン酸のソースであることは、シロイヌナズナのアスコルビン酸欠乏変異体(vtc)の解析からも明白です。原因遺伝子であるVTC1はGMPをコードし、VTC2およびVTC4はそれぞれGGPとGPPをコードします。

・ホスホマンノースイソメラーゼ(PMI)

 PMIによるD-フルクトース-6リン酸のD-マンノース-6リン酸(M6P)への変換は、Smirnoff経路の最初の段階です。この反応により、ヘキソースリン酸プールと呼ばれる糖代謝の主要ハブからアスコルビン酸生合成への炭素フラックスが生まれます。ちなみに、M6Pもヘキソースリン酸の一種ですが、植物では存在量が少なく、いわゆる「ヘキソースリン酸プール」の構成成分には含まれません。シロイヌナズナには2つのPMI遺伝子(PMI1および2)が存在します。両方のリコンビナント酵素は同程度の触媒効率を示します。それにも関わらず、PMI1(At3g02570)の発現抑制はアスコルビン酸レベルの低下を引き起こすのに対し、PMI2(At1g67070)の欠損は影響しないことから、アスコルビン酸生合成に働くのはPMI1のみであることがわかっています(Maruta et al., J. Biol. Chem., 2008)。PMI2は通常条件ではあまり発現しておらず、長期的な暗黒処理など、飢餓を引き起こす条件で特異的に発現します(過去にダーク誘導性遺伝子DIN9として報告されています)。そもそも、このような条件で植物はアスコルビン酸を合成しません。なお、研究当時、PMI1のノックアウト株の単離を試みたもののホモ接合体が取れなかったので、たぶん致死だと考えています。

・ホスホマンノムターゼ(PMM)

 次のステップはPMMによるM6PからM1Pへの変換です。シロイヌナズナには一遺伝子(At2g45790)が存在します。リコンビナント酵素を用いた解析から、このシロイヌナズナ酵素はPMM活性を持ち、弱いながらホスホグルコムターゼ(PGM:グルコース-6Pとグルコース-1Pの変換)活性を示すことがわかっています(Qian et al., Plant J., 2007)。ただし、この酵素のグルコース-1Pに対するVmaxは、M1Pに対するそれの1/10程度です(グルコース-1Pに対するKm値も高いです)。PMM活性が植物のアスコルビン酸生合成に必要であることは、ベンサミアナタバコでの一過的な発現抑制系から明らかにされました(Qian et al., Plant J., 2007)。また同時期に、シロイヌナズナの温度感受性変異株(pmm-12)の原因遺伝子としても同定されました(Hoeberichts et al., J. Biol. Chem., 2008)。pmm-12は28度の比較的高い温度条件で明確な細胞死を示す変異株として単利されました。この温度は、シロイヌナズナ野生株にとって重大な損傷をもたらす温度ではありません。興味深いことに、pmm-12のアスコルビン酸レベルを前駆体処理によって回復させても、細胞死の表現型は戻らなかったことから、その高温感受性はアスコルビン酸とは無関係であることが示唆されます(Hoeberichts et al., J. Biol. Chem., 2008)。後述するように、PMMの次の反応によって生成されるGDP-D-マンノース(GDP-D-Man)は糖タンパク質や細胞壁成分への糖ドナーとして重要であることから、GDP-D-Manの糖ドナーとしての機能が温度耐性に必要であると考えられます。

・GDP-D-マンノースピロホスホリラーゼ(GMP)

 続いて、M1PはGMPのはたらきによってGDP-D-マンノース(GDP-D-Man)へと変換されます。シロイヌナズナには1遺伝子が存在します。GMPはアスコルビン酸欠乏変異株vtc1の原因遺伝子です。最初、vtc1はオゾン感受性変異株(soz1)として1996年に単離されており、アスコルビン酸を欠乏していること(Conklin et al., PNAS, 1996)、アスコルビン酸生合成能力が低いこと( Conklin et al., Plant Physiol., 1997)が既にわかっていました。Smirnoff経路が1998年に提唱された翌年、VTC1遺伝子がGMPをコードすることが明らかになり(Conklin et al., PNAS, 1999)、これがSmirnoff経路の生理学的重要性を示す最初の遺伝学的証拠になりました。同年には、GMP発現をアンチセンス法で抑制させた形質転換ポテトが作出され、この形質転換株はアスコルビン酸レベルの減少に伴い、著しい老化促進の表現型を示すことが報告されました(Keller et al., Plant J., 1999)。ただし、GMPが生成するGDP-D-Manは糖タンパク質や細胞壁成分への糖ドナーとしても重要であるため、vtc1変異株やそのアリルはアスコルビン酸欠乏とは無関係に、さまざまな表現型を示します。例えば、vtc1のアリルとして、cytokinesis-defective 1(細胞質分裂異常、cyt1)変異株が単離されています(Nickle and Meinke, Plant J., 1998)。cyt1は胚性致死、不完全な細胞壁形成およびカロースの異常蓄積を引き起こします(Nickle and Meinke, Plant J., 1998)。これらの表現型はアスコルビン酸欠乏によるものではなく、GDP-D-Manの糖ドナーとしての機能が抑制された結果として起こります(Lukowitz et al., PNAS, 2001)。さらに、アンモニア高感受性変異株として単離されたhsn1変異株もvtc1のアリルですが(Qin et al., PNAS, 2008)、他のvtc変異株(vtc2vtc4)はアンモニア高感受性を示しません。したがって、アンモニア感受性の表現型はvtc1に特異的であり、タンパク質グリコシル化などのプロセスの異常に起因すると考えられます(Qin et al., PNAS, 2008)。このように、GMPはアスコルビン酸生合成、タンパク質糖化、細胞壁合成の重大な分岐点に位置します。そして、vtc1で見られる表現型がアスコルビン酸欠乏に由来するかどうかは慎重に判断される必要があるのですが、未だに代表的なアスコルビン酸欠乏変異株の一つとしてvtc1のみを用いた研究も散見されます。

・GDP-D-マンノース-3′,5′-エピメラーゼ(GME)

 GMEはGDP-D-Manの3’および5’位のエピマー化を介してGDP-L-ガラクトース(GDP-L-Gal)を生成する酵素です。この酵素はシロイヌナズナから部分精製され、クローン化されました(Wolucka et al., PNAS, 2001)。この酵素は、5’位のエピマー化により反応産物としてGDP-L-グロースも生成しうるため、後述するバイパス経路の根拠として報告されています(Wolucka and Van Montagu, J. Biol. Chem., 2004)。この酵素のアスコルビン酸生合成への関与を示す最初の遺伝学的証拠は、トマトのGME発現抑制株を用いた解析から得られました(Gilbert et al., Plant J., 2009)。GME発現抑制トマトはアスコルビン酸欠乏とともに顕著な生育阻害の表現型を示しますが、興味深いことに、この生育阻害は外部からのアスコルビン酸または前駆体処理によって回復しません(Gilbert et al., Plant J., 2009)。細胞壁成分であるペクチン質多糖のラムノガラクツロナンIIは、L-ガラクトース(L-Gal)を含むさまざまな糖から構成される複雑な構造体であり、そのL-Gal成分の糖ドナーとしてGDP-L-Galは重要な役割を担っています。さらなる詳細な解析により、GME発現抑制株では、ホウ酸を介したラムノガラクツロナンII分子の架橋が抑制されており、これこそが成長阻害の主要因であることがわかっています(Voxeur et al., J. Biol. Chem., 2011)。このように、GMEもまたアスコルビン酸生合成と細胞壁合成の分岐点に関わっています。

・GDP-L-ガラクトースホスホリラーゼ(GGP)

 GGPの触媒する反応は他の生物を含めてもまったく報告されておらず、新規酵素という意味ではSmirnoff経路において最後に同定された酵素でした(他の生物種では既に同定されていた酵素で、Smirnoff経路との関わりが最後に証明されたのはPMI)。この酵素は2007年に3つの独立したグループからそれぞれ報告されました。おそらくGGPの同定が遅れた大きな理由は、この酵素の基質がそもそも売っていないからだと思います。最初の報告は、2007年5月のニュージーランドのLaingらによるものでした(Laing et al., PNAS, 2007)。彼らは、VTC2アミノ酸配列にHITと呼ばれるヌクレオチド結合および加水分解酵素のモチーフが含まれることを見つけ、L-ガラクトースグアニルトランスフェラーぜ(GGT)活性を持つと予想し、シロイヌナズナおよびキウィのVTC2リコンビナント酵素がGDP-L-GalからL-Gal-1Pの生成活性を持つことを明らかにしました。この反応は、GDP-L-ガラクトースとマンノース-1リン酸から、GDP-D-マンノースとL-ガラクトース-1リン酸が生成されるものです。続く2007年6月に、アメリカのLinsterらが同じくVTC2がHITモチーフを持つこと、そしてVTC2のモチーフでは重要なアミノ酸が置換していることから、VTC2はGGTではなく、GPP活性を持つと予測し、実際にシロイヌナズナVTC2がGPP活性を持つことを報告しました(Linster et al., J. Biol. Chem., 2007)。つまり、GDP-L-ガラクトースと無機リン酸から、L-ガラクトース-1リン酸とGDPが生じる反応です。また、VTC2はGDP-L-ガラクトースだけではなく、GDP-D-グルコースに対しても同等の触媒効率を持つことを示しました。最後が、2007年11月(受理は7月)、Nick Smirnoffと石川の共同研究グループによる報告です(Dowdle & Ishikawa et al., Plant J., 2007)。シロイヌナズナにおいて、GGPは二つの遺伝子にコードされます。一つはVTC2で、もう一つはそのパラログであるVTC5です。この報告では、VTC2とVTC5の両方がGGPとして機能的であること、そして両遺伝子の二重欠損株は完全なるアスコルビン酸要求性で、通常の生育条件ではシードリング致死となることが明らかにされました(Dowdle & Ishikawa et al., Plant J., 2007)。これは、アスコルビン酸が植物の生存にとっても不可欠であることを示す最初の発見であり、上述の三つの論文の中で最多の引用数を誇っています(2021年現在)。ちなみに、おそらくVTC5欠損株ではアスコルビン酸レベルが若干(無視できるレベルで)低下するため、VTC(ビタミンC欠乏)という名前を付けられたのだと思うのですが、本当に無視できるレベルなので、VTCの名前を与えられるのはちょっと微妙な気がします。さらにちなみに、vtc2のオリジナル変異株(vtc2-1)はvtc1-1とともに1996年にオゾン感受性変異株として同定されており(Conklin et al., PNAS, 1996)、2002年には原因遺伝子が同定されていました(Jander et al., Plant Physiol., 2002)。当初、VTC2のアミノ酸配列からは特定のドメインが検出されず、どんな機能を持っているのかまったくの不明でした。実は、丸田は学生のとき(2006年)にVTC2とアスコルビン酸生合成制御の関わりを調べようと、そのパラログであるVTC5の機能解析を始めたのですが、直後にVTC2がGGPであることを石川さんから知ってしまい、無念のリタイアとなりました(涙)。

 上述の通り、GMPやGMEはアスコルビン酸生合成と他のプロセスの重要な分岐点になっています。また、GMEまでの酵素反応は可逆的ですが、それ以降は不可逆です(厳密にはGPPの活性は可逆的ですが、逆反応の活性が非常に弱い)。そのため、GGPの触媒反応は、この経路の方向決定段階(the first committed step)となります。

L-ガラクトース-1リン酸ホスファターゼ(GPP)

 GGP反応によって生成されたL-Gal-1Pは、GPPのはたらきによってL-Galへと脱リン酸化されます。主要GPP遺伝子はvtc4変異株の原因遺伝子です。ただし、GPPをコードするVTC4のノックアウト株は3~4割程度のGGP活性とアスコルビン酸を保持するため、VTC4以外のGPP遺伝子が存在するはずですが、未同定です。

L-ガラクトース脱水素酵素(GDH)

 GDHの反応によってL-ガラクトノ-1,4-ラクトン(L-GalL)へと変換されます。

L-ガラクトノ-1,4-ラクトン脱水素酵素(GLDH)

 このL-GalLの合成までは細胞質で起こりますが、最終段階を触媒するGLDHはミトコンドリアに存在します。この酵素はミトコンドリアの内膜に局在し、シトクロムcを電子受容体として利用します。すなわち、呼吸鎖電子伝達系と共役することでL-GalLを酸化し、アスコルビン酸を合成します。GLDHの触媒部位は膜間スペースに面しているため、アスコルビン酸が合成されるのは膜間スペースです。また、L-GalLのミトコンドリアへの輸送と、合成したアスコルビン酸の細胞質への排出は、ミトコンドリア外膜のポリン(孔)を介すると予想されます。細胞質から他のオルガネラや細胞外、またミトコンドリア膜間スペースからマトリックスへのアスコルビン酸輸送には特異的な輸送体タンパク質が必要だと考えられています。これまでに、葉緑体内膜と液胞膜で一つずつ輸送体が同定されていますが、まだまだ全容の解明にはほど遠く、石川グループが面白い方法で新規輸送体の探索を狙っているところです。

 以上のとおり、当研究グループでは、石川がイギリス留学中にVTC2/GGPを(Dowdle & Ishikawa et al., Plant J., 2007)、丸田が学生のときにPMIをそれぞれ同定しており(Maruta et al., J. Biol. Chem., 2008)、国内でもっともアスコルビン酸生合成系の解明に貢献したチームと言えるのではないでしょうか(笑)。

植物におけるオルタナティブ経路の可能性

 植物ではD-Man/L-Gal経路の他に複数のアスコルビン酸生合成経路が提唱されています。上図に示す通り、myo-イノシトール経路、ガラクチュロン酸経路(ユーグレナと相同)およびバイパス経路です。しかし、これらの経路が実際に機能するという証明はありません。

myo-イノシトール経路(上図の緑):植物でも動物経路に類似したルートが存在する可能性は示唆されていました。上述の通り、動物経路ではD-グルクロン酸(D-GlcUA)やL-グロン酸を介してアスコルビン酸が合成されますが、例えば、シロイヌナズナの培養細胞にD-GlcUAメチルやそのラクトン(グルクロノラクトン)を処理するとアスコルビン酸レベルが増加することが報告されています(Davey et al., Plant Physiol., 1999)。2004年にmyo-イノシトールのD-GlcUAへの変換を触媒するmyo-イノシトールオキシゲナーゼ(MIOX4)遺伝子をシロイヌナズナで過剰発現することで、アスコルビン酸レベルが2~3倍に増加することが報告され(Lorence et al., Plant Physiol., 2004)、myo-イノシトール経路がリアリティのあるオルタナティブ経路として提唱されました。さらに、同じグループのアクティベーションタグラインを用いたオゾン耐性変異株スクリーニングから、パープルアシッドホスファターゼ(AtPAP15)の過剰発現がアスコルビン酸レベルを約2倍に増加させることも報告されました(Zhang et al., Plant Physiol., 2008)。AtPAP15はフィチン酸の脱リン酸化によりmyo-イノシトールを生成することから、myo-イノシトール経路がさらに支持されました。ただし、AtPAP15の欠損株ではフィチン酸ホスファターゼ活性が大幅に低下するにも関わらず、アスコルビン酸レベルに目立った影響は見られません(Zhang et al., Plant Physiol., 2008)。一方で、MIOX4遺伝子を過剰発現させるとMIOX活性は増大するにも関わらず、アスコルビン酸レベルには影響がないという明確な反論が別の研究グループから報告されています(Endres and Tenhaken, Plant Physiol., 2009)。このグループは、さらにMIOX4過剰発現株にmyo-イノシトールを処理しましたが、それでもアスコルビン酸は増加しませんでした(Endres and Tenhaken, Plant Physiol., 2009)。とはいえ、myo-イノシトール経路を提唱したグループが、新規にMIOX4過剰発現シロイヌナズナを作出したところ、やっぱりアスコルビン酸レベルが増加したという再反論論文もあったり(Nepal et al., Plant Direct, 2019)、トマトでMIOX4を過剰発現させるとアスコルビン酸レベルが多少増加するという報告もあったりします(Munir et al., BMC Genomics, 2020)。このように、実際のところmyo-イノシトール経路がアスコルビン酸生合成経路として機能するかどうかはとても曖昧な状況ですが、現時点で強調すべき点は、この経路に関する遺伝学的な証明がまったくないということです。MIOXの欠損がアスコルビン酸レベルを低下させることや、ラベル化したmyo-イノシトールのトレーサー解析など、さらなる証拠が必要な状況です。

・バイパス経路(上図の黄):バイパス経路の発見は、Smirnoff経路の構成酵素GMEが反応産物としてGDP-L-グロースも生成するという発見(Wolucka and Van Montagu, J. Biol. Chem., 2003)に基づいて提唱されたものです。GDP-L-グロースからL-グロース-1リン酸、L-グロースおよびL-グロノ-1,4-ラクトンを経てアスコルビン酸が合成されると推定されています。実際に、外部からのL-グロース処理によってアスコルビン酸レベルも増加し、それによって内在性のSmirnoff経路がフィードバック阻害を受けると報告されています(Wolucka and Van Montagu, J. Biol. Chem., 2003)。しかし、この経路に関するさらなる証拠は得られていません。

・GULO活性は植物に存在するのか?:myo-イノシトール経路やバイパス経路がもし機能するのであれば、最終前駆体は動物経路と同様にL-グロノ-1,4-ラクトン(L-GulL)であると予想されています。植物のGLDHはL-ガラクトノ-1,4-ラクトン(L-GalL)に特異的で、L-GulLを基質にしません。そのため、上述の経路が機能するためにはGULOが必要なはずです。GULO活性は植物に存在するのでしょうか? 過去に、ラットのGULOをシロイヌナズナで過剰発現させるとアスコルビン酸レベルが少し増加することが報告されています(Radzio et al., Plant Mol. Biol., 2003)。とはいえ、GULOは植物経路の最終前駆体(L-GalL)も基質にすることができるので、この結果だけではGULO活性の増大がアスコルビン酸レベルを向上させたかどうかわかりません(L-GalLを介したアスコルビン酸生合成が強まった可能性が否定できない)。面白いのは、Smirnoff経路の構成酵素遺伝子を欠くvtc変異株にラットGULOを過剰発現させるとアスコルビン酸レベルが顕著に回復するという結果です(Radzio et al., Plant Mol. Biol., 2003)。とはいえ、これはなかなか奇妙な結果です。vtc変異株ではL-GalL生成速度が低下していますので、L-GalLからアスコルビン酸への変換過程がラットGULOの過剰発現により亢進されるとは考えにくいからです。そもそも、L-GalLを植物に添加するとアスコルビン酸レベルが著しく増加するので、GLDH活性は生合成の律速にはなりません。植物にL-GulL生成能力があり、さらにGULO活性が律速になっている可能性が示唆されます。でも、それはバイパス経路ではないでしょう。なぜなら、vtc1変異株ではGMP活性が低下し、この酵素はGDP-L-グロースを生成するGMEよりも上流に位置するため、vtc1変異株ではSmirnoff経路とバイパス経路の両方が抑制されていると考えられるからです。vtc1変異株でGULOを過剰発現することでアスコルビン酸が回復するということは、バイパス経路以外のルートでL-GulLが生成され、GULOによってアスコルビン酸に変換される必要があります。なんだかとても複雑なことを書きましたが、このような研究例は2003年以降報告されておらず、さらなる検証が必要です。しかし一方で、植物には動物GULOと低いながらも相同性を示す遺伝子が複数存在します。そのうちのいくつかをタバコ培養細胞で過剰発現させると、基質となるL-GulL添加時にアスコルビン酸レベルが増大することが分かっています(Maruta et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 2010)。ただ、これらの遺伝子産物がGULOとして生合成に寄与するかどうかは正直なところ分かっていないのが現状です。あるいは、L-GulLをL-GalLに変換するエピメラーゼが存在し、結局はGLDHを介してアスコルビン酸が作られるかも?という推測もあったりします(Davey et al., Plant Physiol., 1999)。

・ガラクチュロン酸経路(上図の青):現時点でもっともらしいのはガラクチュロン酸経路で、果実などの組織では働いている可能性が示唆されています。この経路では、細胞壁成分であるペクチンの分解に伴って生成されるガラクチュロン酸が中間体になると考えられています。実際に、トマト果実の熟成に伴うアスコルビン酸量の増加が、ガラクチュロン酸経の関連酵素活性の上昇と相関関係にあることが過去の石川グループの研究から分かっています(Badejo et al., J. Exp. Bot., 2012)。

 グダグダとオルタナティブ経路について記載しましたが、いずれの経路も現時点では明確なエビデンスを欠いているのが現状です。そして、忘れてはいけないのは、Smirnoff経路の完全停止によってシロイヌナズナのシードリングではアスコルビン酸が検出不可になるということです。つまり、少なくともシードリング段階ではほぼ100%のアスコルビン酸がSmirnoff経路を介して合成されることになります。もしオルタナティブ経路が機能するとしても、特定の組織(果実など)や植物種に限られると思われます。

植物進化におけるSmirnoff経路の獲得と保存

 Smirnoff経路の進化的獲得や保存性に関しては、前述のWheelerら(2015)の研究で詳しく調べられています。特に、アーケプラスチダ(陸上植物や緑藻、紅藻および灰色藻などを含む一次共生植物のグループ)で生合成遺伝子や経路がどのように獲得されてきたのか、とても興味深く考察されています。これまでの植物アスコルビン酸生合成研究は主に高等植物(特にシロイヌナズナやトマト)で進められてきましたが、最近、その他の藻類やコケ植物に関する知見も増えてきました。Wheelerら(2015)の報告や石川グループの研究(Sodeyama et al., Plant J., 2021)を基に少しまとめてみたいと思います。

・灰色藻:灰色藻はGLDHではなく、動物生合成酵素のGULOを持っています。また、Smirnoff経路のGDH遺伝子も持っているのですが、その他の生合成関連遺伝子はまったく持っていません。また、植物特有のアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)やアスコルビン酸再生に関する遺伝子も皆無です。さらに、GC-MSを用いた分析では、灰色藻の一種であるCyanophora paradoxaのアスコルビン酸が検出限界以下のレベルだったらしく(Wheeler et al. eLife, 2015)、灰色藻はアスコルビン酸を合成・利用しない可能性が高いようです。この藻類のGULOやGDHは別の代謝に関与するのかもしれません。灰色藻はさまざまな点でシアノバクテリアと共通した特徴を持っているらしく、植物進化の基部に位置しているようです(まだ、進化過程での灰色藻や紅藻、緑藻の分岐はいまいち不明瞭だそうです)。アスコルビン酸を合成・利用しないという点でも、灰色藻はシアノバクテリアと似ています。

・紅藻:紅藻はアスコルビン酸生合成系に加えて、植物と同じようなアスコルビン酸代謝酵素(APXや再生酵素など)を持っています。面白いことに、紅藻は種によってGLDH(植物酵素)かGULO(動物酵素)のどちらか片方を持っているようです。例えば、Galdieria sulphurariaGaldieria phlegreaはGULOを持っているのに対し、Cyanidioschyzon merolaePorphyridium purpureumChondrus crispusはGLDHを持っています。いずれの紅藻にも、他のSmirnoff経路の構成酵素遺伝子が含まれています。ただ、興味深い例外はVTC2/GGPで、すべての紅藻がこの遺伝子を持っていません。一般に、GULOはL-GulLだけではなく、L-GalLも基質にすることができます。そのため、紅藻はSmirnoff経路と類似したルートでL-GalLを作り出し、GULOまたはGLDHを使ってアスコルビン酸を生合成していると考えられます(そして、おそらく未同定かつ新規のGGP遺伝子が紅藻には存在すると予想されます)。Wheelerら(2015)の研究では、紅藻へのL-Gal処理がアスコルビン酸レベルを増加させることが見出され、安定同位体を用いたラベリング実験により、Galdieria sulphurariaでのアスコルビン酸生合成は炭素鎖の逆転を伴わない(=Smirnoff経路と類似)ことが明らかにされています。なお、紅藻はAPXも独特で、緑藻のものとは明らかに違うんですよね(Maruta et al., Plant Cell Physiol., 2016参照)。まだまだ紅藻のアスコルビン酸代謝には不明な点が多く残されていますが、いずれにせよ灰色藻とは異なり、紅藻はSmirnoff経路に類似した仕組みでアスコルビン酸を生合成することが明らかになっています。

・緑藻:緑藻はGULOではなくGLDHを持ち、その他のSmirnoff経路の構成酵素遺伝子もすべて保存しています。したがって、Smirnoff経路は緑藻で完成されたと考えられます。ただし、Wheelerら(2015)の報告によると、緑藻の中でもプラシノ藻類はGDH遺伝子を欠いているようです(たぶん同じ酵素活性を持つ別の酵素が存在する?)。緑藻におけるSmirnoff経路の機能はクラミドモナスを用いた遺伝学的研究により証明されています。

・コケ植物:コケ植物は蘚類、苔類およびツノゴケ類に分かれていますが、いずれのコケ植物もフルセットでSmirnoff経路の構成酵素遺伝子を持っています。この経路は緑藻や他の陸上植物でプレドミナントにはたらくことを考えると、コケ植物もSmirnoff経路を使ってアスコルビン酸を合成することが強く示唆されますが、遺伝学的な証明はありませんでした。最近、石川グループは蘚類ヒメツリガネゴケを用いてVTC2の機能解析を試みました。ヒメツリガネゴケは3つのVTC2遺伝子を持っていて、そのうちの二つが高い発現レベルを示し、どちらのノックアウト株でもアスコルビン酸レベルの低下が見られました。したがって、コケ植物でもSmirnoff経路が機能的であることがわかりました(Sodeyama et al., Plant J., 2021)。一方、興味深いことに、ヒメツリガネゴケにはユーグレナのガラクチュロン酸経路で機能するアルドノラクトナーゼ(ALase)遺伝子が存在しました。実際に、ヒメツリガネゴケのALaseはユーグレナ酵素と同じ酵素活性を持っていたのですが、ノックアウト株ではアスコルビン酸の低下が見られず、むしろ増加することがわかりました。したがって、ヒメツリガネゴケはALaseを持っているものの、ガラクチュロン酸経路はなく、やはりSmirnoff経路を使ってアスコルビン酸を合成することがわかりました(Sodeyama et al., Plant J., 2021)。この研究の詳細は、過去の研究成果記事(→コチラ)に記載しています。

・シダおよび裸子植物:これらの植物での研究例は今のところありませんが、ゲノム配列のわかっている全ての種でSmirnoff経路に関する酵素遺伝子が完全に保存されています。緑藻やコケ植物、被子植物でSmirnoff経路が高度に保存され、ドミナントに機能することを考慮すれば、これらの植物も同じようにSmirnoff経路を介してアスコルビン酸を合成すると考えるのが妥当だと思われます。

 このように、Smirnoff経路は緑藻で完成された後、陸上植物で高度に保存され、アスコルビン酸生合成の主経路として機能していることがわかってきました。紅藻のアスコルビン酸生合成経路は完全に証明されていないので、今後の課題です。

高等植物におけるSmirnoff経路の制御

・Smirnoff経路の律速段階
 Smirnoff経路に関わる酵素がほぼ全てコンプリートされて以来、その制御機構の解明に注目が集まりました。本経路の律速段階はどの反応でしょうか?アスコルビン酸生合成の最後2つの前駆体であるL-ガラクトース(L-Gal)およびL-ガラクトノ-1,4-ラクトン(L-GalL)の処理は、植物組織のアスコルビン酸レベルを著しく増加させることが知られているため、律速段階がGDHよりも上流に存在することは明確です。その段階を探し当てるべく、これまでに国内外の様々な研究者によって生合成関連遺伝子の過剰発現植物が作出されてきました。結果として、いくつかの酵素の過剰発現によってアスコルビン酸が増加することが報告されましたが、結果に明瞭さや再現性の無い場合もあり、結局このアプローチから明確な結論は得られていないように思います。しかし、唯一、VTC2遺伝子の過剰発現だけは数多くの植物種でアスコルビン酸レベルを顕著に増加させることがわかっています(e.g., Bulley et al., Plant Biotechnol. J., 2012; Yoshimura et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 2014)。さらに、VTC2/GGPの反応はほぼ不可逆であるのに対して、上流の反応は全て可逆的です。また、上流の前駆体であるGDP-D-マンノースやGDP-L-ガラクトースは細胞壁成分や糖タンパク質の糖ドナーとしても機能するため、VTC2/GGP反応が生合成の方向決定段階にあります。また、後述するように、アスコルビン酸生合成が活発になる強光ストレス条件下で著しく活性が増大するのはVTC2/GGPのみです。これらの事実から、私たちはVTC2/GGPがSmirnoff経路の律速段階を触媒すると考えても差し支えないと思います。実際、最近のモデリング解析(Fenech et al., Plant Physiol., 2021)からもVTC2/GPPが律速であることが強く示唆されています。

・生合成の光制御/光合成依存的なVTC2/GGPの活性化

 この経路を調節する上でもっとも重要な環境要因は光です。アスコルビン酸生合成は日中に活発で、特に光強度依存的に活性化されますが、夜間には抑制されます。このことは、アスコルビン酸の生理機能の多くが光ストレス耐性/応答とリンクしている事実と一致しています。

最近、シロイヌナズナのカルモジュリン様タンパク質(CML10)がカルシウム依存的にPMMと相互作用し、その活性を高めることが報告されました。CML10の発現抑制株では、特にストレス条件下でのアスコルビン酸含有量が低下するため、このタンパク質はPMMの活性化を介してアスコルビン酸生合成を調節することが示唆されています(Cho et al., New Phytol., 2016)。

・アスコルビン酸によるVTC2/GPP翻訳のフィードバック制御

 

・タンパク質キナーゼ/ホスファターゼをコードするVTC3の関与

 

以下、より詳細を執筆中