[論文発表]ビタミンC生合成経路の進化@eLife誌

2015年3月13日

 石川孝博教授と英国のエクセター大学(Nicholas Smirnoff教授ら)および海洋生物学研究所(Glen Wheeler博士)の国際共同研究により、動植物・微生物におけるビタミンC(アスコルビン酸)生合成経路の進化の概要が明らかになり、eLIFE誌にて発表されました。

Evolution of alternative biosynthetic pathways for vitamin C following plastid acquisition in photosynthetic eukaryotes
Glen Wheeler, Takahiro Ishikawa, Varissa Pornsaksit, and Nicholas Smirnoff

eLife, 4:e06369, 2015. DOI: 10.7554/eLife.06369

 

研究の概要

 植物や真核藻類などの光合成生物と同様に、多くの動物はビタミンCを生体内で合成することができます。どの生物種の経路でも六単糖リン酸が出発物質ですが、それ以降の分子機構は各々で大きく異なります(図)。例えば、動物経路とユーグレナ経路では、炭素鎖の逆転が起こるのに対して、植物経路では起こりません。また、動物経路の最終段階はL-gulonolactone oxidase(GULO)が触媒しますが、植物とユーグレナの経路の場合はL-galactonolactone dehydrogenase(GLDH)です。ヒトを含む霊長類などはGULO遺伝子を欠損しているために生合成能力を持たず、ビタミンCを食事から摂取する必要があります。動物と植物の両方の性質を持つ微細藻類ユーグレナは、動物とも植物とも異なる経路でビタミンCを合成しますが、最終段階にはGLDHを用います。

Fig1

左から、それぞれ動物、植物、ユーグレナにおける生合成経路。

 本研究では、GULOおよびGLDH酵素遺伝子の大規模な探索および各生物種における分布、それらの情報を基盤とした分子系統樹および生化学的解析などによって両酵素の進化について調べました。結果を要約すると、1)基本的にすべての真核生物はGULOかGLDHのいずれかを持つ、2)非光合成真核生物はGULOをずっと保持してきたが、ヒトを含む霊長類などで欠失した、3)光合成生物では葉緑体が獲得された後にGULOがGLDHに取って代わられたことなどが分かりました。このように、GULOの欠失は進化過程で何度も生じていることが分かります。

 GULOは反応副産物としてH2O2(活性酸素種の一種)を生成します。一方、GLDHの場合は電子受容体としてシトクロムcを用いるので、H2O2は生成されません。そのため、おそらく植物はH2O2生成を伴わない合成経路(GLDHを使う経路)を確立することで、ビタミンCを光防御のための主要抗酸化剤として利用できるように進化したのであろうと考えられます。また、紅藻類は植物経路に関わる酵素のほとんど全てを持っていますが、鍵となるVTC2酵素遺伝子が存在しないことから、それに代わる酵素の存在が示されました。その他にも、ビタミンC代謝に関わる酵素群の分布や進化についても調べられており、興味深い情報が満載です。