[論文発表]trans-2-エノイル-CoA還元酵素はワックスエステル発酵に不要?@PLoS ONE誌

2019年1月9日

 ユーグレナのtrans-2-エノイル-CoA還元酵素(TER)の機能解析に関する石川グループの論文がPLOS ONE誌に受理されました。これは慶應大学との共同研究で、戦略的創造研究推進機構(CREST)『形質転換ユーグレナによるバイオ燃料生産基盤技術の開発(代表:石川)』による研究成果です。また、本研究は修了生の冨山拓矢くんが開始し、同じく修了生の後藤京さんがしっかり締めてくれました。感謝です。

 

A major isoform of mitochondrial trans-2-enoyl-CoA reductase is dispensable for wax ester production in Euglena gracilis under anaerobic conditions
Takuya Tomiyama, Kyo Goto, Yuji Tanaka, Takanori Maruta, Takahisa Ogawa, Yoshihiro Sawa, Takuro Ito, Takahiro Ishikawa*

PLoS ONE, 2019 Jan 16;14(1):e0210755. DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0210755
equally contributed/ *corresponding author

 

研究の内容

 嫌気条件において、ユーグレナは貯蔵多糖パラミロンを原料とした嫌気発酵によりワックスエステルを大量に合成します。このワックスエステル合成は、脂肪酸のβ酸化経路の逆反応としてミトコンドリアで進行します(図1)。一般に、β酸化経路のアシル-CoA デヒドロゲナーゼ反応は不可逆ですが、ユーグレナはその逆反応を触媒するtrans-2-エノイル-CoA還元酵素(TER)を有するため、逆反応経路を介してワックスエステルを合成できると考えられてきました。また、高等動物のTERとは異なり、ユーグレナTERはC4 基質クロトニル-CoAに対して高い親和性を持つため、アセチル-CoA からの脂肪酸de novo合成を可能にします。このようなTERを持っているからこそ、ユーグレナは嫌気発酵の最終産物としてワックスエステルを合成できるのだと言えます。しかし今回の私たちの研究結果は、TERがワックスエステル発酵に必要ではないことを示しました。

 ユーグレナTERはHoffmeisterらによって2005年に単離・クローニングされていました。今回、このTERがどのくらいワックスエステル発酵に重要なのかを調べるため、私たちはTERの発現を低下させたノックダウン細胞を作出しました。ノックダウン細胞では著しいTER活性の低下が見られたことから、標的としたTERが主要酵素であることに間違いはありません。しかし予想外なことに、嫌気条件でのワックスエステル合成はTERのノックダウンによって抑制されることはなく、むしろコントロール細胞と比較して少し促進されました(図2)。別のTER遺伝子が機能する可能性を考慮し、TERとアノテーションされた遺伝子を片っ端からノックダウンしましたが、ポジティブな結果は得られませんでした。TERノックダウン細胞では、通常時には機能しない未同定の代替システムが活性化されている可能性もあり、TERがワックスエステル発酵に「関与しない」と結論づけることはできませんが、少なくとも「必須ではない」ことは確かになりました。もしかしたら、ユーグレナのアシル-CoA デヒドロゲナーゼ反応が可逆的である可能性も考えられます。

 さて、詳細な分子機構は不明ですが、TERノックダウン細胞はクロロフィルを作ることができず、緑色になることができませんでした(図2)。実は、ユーグレナのTERはN末端に葉緑体移行シグナル様の配列を持っており、葉緑体での脂肪酸代謝を通して葉緑体発達に関与する可能性もあります。論文では脂肪酸やワックスを含む代謝産物の定量解析をもとに、ユーグレナTERの生理機能について議論しています。