[論文発表]選択的スプライシング制御因子SME1への変異は酸化ストレス耐性を強化する@Free Radic Biol Med誌

2023年3月

 丸田隆典教授とゲント大学/フランダース・バイオテクノロジー研究所(VIB、ベルギー)の共同研究グループが、選択的スプライシングに関与するRNA結合タンパク質と酸化ストレス応答との関連を明らかにし、その成果をFree Radical Biology and Medicine誌に発表しました。

Mutation of Arabidopsis SME1 and Sm core assembly improves oxidative stress resilience
Patrick Willems, Valerie Van Ruyskensvelde, Takanori Maruta, Robin Pottie, Alvaro Daniel Fernandez, Jarne Pauwels, Matthew Hannah, Kris Gevaert, Frank Van Breusegem* and Katrien Van der Kelen
Free Radical Biology and Medicine, 200: 117-129, 2023 May. DOI: https://doi.org/10.1016/j.freeradbiomed.2023.02.025
equally contributed/ *corresponding author

[研究の概要]
 活性酸素種の一つである過酸化水素(H2O2)は潜在的に毒性であるとともに、シグナルとして防御応答の活性化やプログラム細胞死の誘導に関与します。H2O2誘導性細胞死はシロイヌナズナのカタラーゼ欠損株(cat2)で明確に観察されます。カタラーゼはペルオキシソームにおける主要なH2O2消去酵素であり、このオルガネラでは光呼吸過程でH2O2生成が生じます。H2O2誘導性細胞死の分子機構を解明する目的で、当研究グループではcat2で生じる細胞死のサプレッサー変異株を単離してきました。今回、原因遺伝子の一つがRNA結合タンパク質SME1であることが明らかになりました。SME1は、mRNAスプライシングの場であるスプライソソームの形成に関与するSmリングの構成因子で、通常のmRNAスプライシングや選択的スプライシングに関与します。複合的なオミクス解析の結果、SME1の欠損はストレス防御に関する遺伝子の発現を構成的に上昇させ、ストレス耐性能力を高めることが明らかになりました(これが細胞死回復の要因)。また、SME1をベイトとしたプロテオミクス解析により、スプライソソームに関与する新規タンパク質候補を同定することにも成功しました。

[あとがき]
 本研究の一部は、丸田が海外特別研究員としてFrank Van Breusegem研究室(ゲント大学/VIB)に留学していたときに行ったものです。当時、共著者のKatrienとValerieが酸化ストレス応答性RNA結合タンパク質の網羅的な機能解析に取り組んでいて、とりわけSME1の機能解析がかなり進められていました。そんな中、僕は僕でcat2で生じる細胞死のサプレッサー変異株のゲノムシーケンスに取り組んでおり、原因遺伝子の一つがSME1だったのです。まさかのSME1かぶり。というワケで、両方の結果をまとめてストーリーを構築して発表したのが今回の論文です。酸化ストレス誘導性細胞死の研究はFrankとの共同で現在も進めています。今年、二国間交流事業(共同研究)に採択してもらえたので(二度目)、またベルギーとの国際関係を深めることができそうです。ベルギービール楽しみだなぁ。