[総説発表]葉緑体型アスコルビン酸ペルオキシダーゼの機能の多様性および進化@Plant & Cell Physiology誌

2016年1月6日

葉緑体型アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)の進化や機能に関するミニレビューを丸田助教石川教授らと執筆し、Plant and Cell Physiology誌にて発表しました。

Diversity and Evolution of Ascorbate Peroxidase Functions in Chloroplasts: More Than Just a Classical Antioxidant Enzyme?
Takanori Maruta, Yoshihiro Sawa, Shigeru Shigeoka, and Takahiro Ishikawa

Plant and Cell Physiology, 2016, 57: 1377-1386.  DOI: https://doi.org/10.1093/pcp/pcv203

 

概要

 葉緑体は光合成の場であるがゆえ、活性酸素種(ROS)のメインソースの一つとなります。葉緑体において、APXはストロマおよびチラコイド膜上(sAPXおよびtAPX)に存在し、ROSの一種であるH2O2の消去に機能しています。種々の植物種からAPX配列を取得し、それらの細胞内局在性予測や分子系統樹解析(図)を行ったところ、どうやら最初のAPXはsAPXとして単細胞真核藻類で獲得され、tAPXは陸上植物に最も近縁であると考えれているシャジクモ類で獲得されたことが分かりました。よって、tAPXの獲得は植物の陸上進出にとって重要だった可能性が考えられます(なお、独自のAPXクレードを持つ紅藻を除いて、他の藻類には細胞質型とペルオキシソーム型がありません。シャジクモ類にて細胞質型と分類されるAPX[KfAPX1]が現れます。)。

 

APX

光合成生物APXの分子系統樹。赤色の*はtAPXを示す。○印の付いたものは、藻類由来の酵素。

 

 これまでに、1)APXは一部の例外を除いて真核光合成生物に特異的なH2O2消去酵素であること、2)葉緑体型APXは電子供与体であるアスコルビン酸の非存在下(もしくは低レベル)で極めて不安定であり、強光ストレス下では容易に失活すること、3)葉緑体内のH2O2消去活性を高めると植物のストレス耐性能が飛躍的に向上することなどから、葉緑体型APXは植物のストレス耐性の鍵酵素であると信じられてきました。しかし、このもっともらしい仮説に反して、葉緑体型APXを遺伝的に欠損させた植物のストレス耐性能は、野生型とほとんど変わらないことも次々に報告されてきました。同時に、APXによって消去されるH2O2は単なる毒性分子ではなく、シグナルとして植物のストレス応答を引き起こすこともわかってきてきました。本総説では、これらの知見を概説し、まだまだ謎の多い葉緑体型APXの機能とその進化について議論しています。