[総説発表]どのように光はアスコルビン酸生合成を活性化するのか?@BBB誌

6月14日

 植物のビタミンC(アスコルビン酸)生合成の調節機構に関する最新の知見を取りまとめ、表題の問いについて議論した総説がBBB誌に受理されました。これは、丸田が3月に受賞した日本農芸化学奨励賞のAward Reviewです。「どうやって光はアスコルビン酸生合成を活性化するのか?」という超ピンポイント(笑)な課題を基盤に、あれやこれやと議論している総説です。一般的に、Award Reviewと言えば受賞者自身の研究を前面に押し出して執筆するものらしいのですが、若輩者がそんなことしても面白くないと思い、まさに今、自分が一番気になっていることの一つを全身全霊で議論してみることにしました(その方が価値が高いと考えた次第です)。結果として、アスコルビン酸生合成の基本から、最近の発展、そして今後の課題までを網羅した総説になっていますのでご笑覧ください(たぶんOpen Access)。

How does light facilitate vitamin C biosynthesis in leaves?
Takanori Maruta
Biosci, Biotechnol, Biochem., 2022 in press, DOI: https://doi.org/10.1093/bbb/zbac096

「総説の概要」 

 植物は葉にアスコルビン酸を高濃度に蓄積します。アスコルビン酸生合成は光によって厳密に調節されており、光強度が高ければ高いほど活性化され、逆に光のない条件(夜間)では速やかに不活性化されます。光照射下の葉緑体では光合成による活性酸素種(ROS)の生成が活発になるため、植物は光依存的にアスコルビン酸の合成を活性化し、蓄積することでROSによる酸化障害を防いでいます。植物の主要なアスコルビン酸生合成経路はD-マンノース/L-ガラクトース経路(通称Smirnoff経路)です。この経路には8つの酵素反応が関わっており、特にGDP-L-ガラクトースホスホリラーゼ(GGP)が律速酵素として重要なはたらきをしています。シロイヌナズナではVTC2遺伝子とそのパラログであるVTC5遺伝子がGGPをコードしています。光照射下では、光合成依存的な未解明のシグナル伝達経路を介してGGPの活性化が起こります。この活性化は葉のアスコルビン酸量の増加と平行して起こります。しかし、最近の研究では、細胞質中のアスコルビン酸がVTC2遺伝子の上流Open Reading Frame(uORF)を介してGGPの翻訳を抑制します。これはアスコルビン酸濃度に依存的なフィードバック阻害機構です。この仕組みをバイオテクノロジー技術によって取り除くと、植物のアスコルビン酸含有量は増加します。

 ここで重大な矛盾が生じます。つまり、1)光照射下ではGGPの活性化とアスコルビン酸の蓄積が同時に起こるのに、2)アスコルビン酸の蓄積はGGP翻訳を強く阻害するわけです。だったら、どうやって光はアスコルビン酸生合成を活性化できるのでしょうか?おそらく、uORFを介したフィードバック阻害機構を無効化する仕組みが存在するはずです。これが今現在、もっとも解決したい謎の一つになっています。この問いに対して、過去の知見や最近の関連分野の研究の進展をフル動員して回答してみよう!というのが、この総説の主旨です。

 上図には光がアスコルビン酸生合成を活性化する推定分子機構モデルを示しています。まず、uORFを介した仕組みを不活性化するための工夫として、1)uORF領域を転写しないオルタナティブ転写開始点の利用が考えられます。次に、細胞質中のアスコルビン酸がGGPの翻訳を阻害するわけなので、2)細胞質からアスコルビン酸を除去=葉緑体や液胞への輸送が重要な役割を果たす可能性があります。最後に、3)生合成酵素のメタボロン形成により、GGPの発現量に依存しない生合成の活性化モデルが考えられます。まだすべて仮説です。今後、これらの仮説の立証、あるいはもっと新しい仕組みの発見により、アスコルビン酸生合成の活性化機構を解明することで、植物アスコルビン酸研究の新たなマトリクスが開かれることを期待しています!

 なお、本総説の図が同誌掲載号の表紙を飾りました!

 なおなお、去年に植物の酸化ストレス耐性とアスコルビン酸代謝の関連について、日本語でまとめたミニレビューをビタミン誌(日本ビタミン学会)でも発表しましたので、こちら(↓)もご笑覧いただけると幸いです。

ビタミンC代謝と植物の環境ストレス順応
丸田隆典
ビタミン95:405-412,2021年9月(今年度9月に無料公開されます)