[論文発表]葉緑体におけるグルタチオン依存的なビタミンC再生機構@The Plant Journal誌

2023年1月

アスコルビン酸再生に関する丸田グループの最新作がThe Plant Journal誌に受理されました。現在、修士2年生の濱田あかねさんの修士論文研究です。

Chloroplast dehydroascorbate reductase and glutathione cooperatively determine the capacity for ascorbate accumulation under photooxidative stress conditions
Akane Hamada, Yasuhiro Tanaka, Takahiro Ishikawa, Takanori Maruta*
The Plant Journal, 2023, in press. DOI: https://doi.org/10.1111/tpj.16117
*corresponding author

[研究の概要]
植物はビタミンC(アスコルビン酸)を還元型として高濃度に含みます。これは複数のアスコルビン酸再生系の協働により成り立っています。二電子酸化型のデヒドロアスコルビン酸(DHA)はグルタチオン(GSH)依存的な非酵素反応または酵素反応によって還元型へと再生されます。後者の反応はデヒドロアスコルビン酸還元酵素(DHAR)によって触媒されます。最近、私たちはこれらの反応が互いに相補的にはたらくことで、強固なアスコルビン酸再生能力をもたらすことを提唱しました(Terai et al., 2020)。これは、「全3つのDHARを欠損(∆dhar)し、かつGSHを欠乏(pad2)するシロイヌナズナ四重変異株(∆dhar pad2)が、強光ストレス下でアスコルビン酸を蓄積できない」という発見に基づくものです。ただ、∆dhar pad2株では細胞質型DHAR1/2および葉緑体型DHAR3を同時に欠くため、どちらがGSH非酵反応との協働に重要かは未解明でした。今回、別のGSH欠乏変異株アリル(cad2)を用いて、dhar1/2 cad2dhar3 cad2および∆dhar cad2を新規に作出し、さまざまな条件でアスコルビン酸プロファイルを比較しました。その結果、葉緑体型DHAR3とGSHの協働がアスコルビン酸再生能力および蓄積能力を決定するという確固たる証拠が得られました。この協働によるアスコルビン酸の高蓄積は植物の光ストレス耐性に不可欠であることも明らかになりました。

[研究の詳細]

  1. 背景と目的

 植物はアスコルビン酸を高濃度に蓄積します。この化合物は優れた抗酸化剤であり、活性酸素種(ROS)の消去を介して細胞のレドックス状態を正常に保つことで、植物の環境順応に貢献します。アスコルビン酸はROSとの反応により自身は酸化されます。二電子酸化型のデヒドロアスコルビン酸(DHA)は非常に不安定であるため、生理的な条件では急速かつ不可逆的な分解をうけます。アスコルビン酸を高濃度に還元型(ASC)で蓄積するためには、DHAからASCへの再生反応が不可欠です。

 DHAの還元はグルタチオン依存的な非酵素反応および酵素反応によって起こります(図1)。後者を触媒するのがデヒドロアスコルビン酸還元酵素(DHAR)です。シロイヌナズナには3つのアイソフォームがあり、DHAR1と2は細胞質に局在し、DHAR3は葉緑体ではたらきます。DHAR反応はグルタチオンによる非酵素的なDHA還元反応よりも速いです。また、非酵素反応は還元型グルタチオン(GSH)のアニオン(GS-)に依存的であり、グルタチオンチオールのpKaは約9.0と高いため、酸性および中性条件ではそれほど効果的ではありません。これらを考慮すれば、DHARがアスコルビン酸再生の鍵を握るという考えに矛盾はないようにみえます。しかし、2017年にフランスのグループによりシロイヌナズナのDHAR三重欠損(DHAR活性はほぼゼロになる)はアスコルビン酸レベルおよびレドックス状態に影響しないことを報告しました。これにより、DHARは本当にDHA還元酵素なのか?という疑念が生じました。そんな中、私たちはDHARの機能がグルタチオンによる非酵素反応によって相補されうることを2020年に報告しました。この研究では、DHAR三重欠損株(∆dhar)にグルタチオン欠乏変異(pad2)を加え、四重変異体(∆dhar pad2)を作出しました。そして、四重変異体では強光ストレス条件下におけるアスコルビン酸の蓄積がほぼ完全に失われ、同時にアスコルビン酸分解産物レベルが増加することを見出しました。これらの結果から、DHARとグルタチオンの協働がアスコルビン酸の高蓄積に不可欠であることを提唱しました。

 ただし、∆dhar pad2は細胞質型(DHAR1/2)と葉緑体型(DHAR3)を同時に欠くため、どちらのアイソフォームがより重要なのかは未解明でした。また、アスコルビン酸再生変異株におけるアスコルビン酸蓄積能力とストレス強度の関連性や、アスコルビン酸生合成への影響なども調べていませんでした。そこで、さらなる多重変異株ラインを作出して、これらの疑問に答えました。

  1. 葉緑体DHAR3とグルタチオンの協働

 グルタチオンとの協働において、細胞質型DHAR1/2と葉緑体型DHAR3のどちらが重要かを調べるために、新たにグルタチオン欠乏変異株としてcad2を用いて、dhar1/2 cad2三重変異株、dhar3 cad2二重変異株および∆dhar cad2四重変異株を作出しました。また、比較のために先行研究(Terai et al., 2020)で作出した∆dhar pad2四重変異株も使用しました。∆dhar cad2と∆dhar pad2ではDHAR活性がほぼゼロになり、グルタチオンレベルが野生株の約20%にまで低下します。つまり、DHARおよびグルタチオンによるDHA還元の両方が抑制されます。

 強光(1,500 µmol photons/m2/s)を照射すると、野生株ではアスコルビン酸プールサイズの増加が起こりました。しかし、この増加は∆dhar pad2ではほぼ完全に抑制され、先行研究結果と一致しました(図2)。同様の抑制は∆dhar cad2dhar3 cad2でも見られましたが、dhar1/2 cad2は野生株レベルのアスコルビン酸蓄積量を保持しました。これらの結果は、グルタチオン欠乏バックグラウンドにおいて葉緑体型DHAR3がアスコルビン酸の蓄積に大きく貢献することを示唆しました。この考えを裏付けるように、人工的な酸化ストレス条件(パラコート処理)におけるアスコルビン酸の低下も、dhar1/2 cad2ではなく、dhar3 cad2でのみ促進されることがわかりました。

 興味深いことに、強光やパラコート処理によって生じる細胞死は、∆dhar pad2や∆dhar cad2四重変異株でのみ促進されました(図3)。したがって、アスコルビン酸定量の結果からは見えてこないものの、植物のストレス感受性という観点では細胞質型DHAR1/2と葉緑体型DHAR3の間にも相互補完性があるということです。これについては、細胞内コンパートメントレベルでのアスコルビン酸のターンオーバーを調べる必要があるのですが、残念ながら技術的に困難です(アスコルビン酸プローブさえあれば、、、)。

 dhar3 cad2や∆dhar cad2では、強光照射によるアスコルビン酸プールサイズの増加がほぼ完全に抑制されますが、この抑制の程度はストレス強度とリンクすることもわかりました。例えば、光強度を1,500 µmol photon/m2/sから半分、さらにその半分と低下させるにつれて、dhar3 cad2や∆dhar cad2のアスコルビン酸蓄積レベルが増加しました。したがって、ストレス強度の高いときにこそアスコルビン酸の酸化速度が高まり、再生能力の要求量も上がるという基本的な考えを、初めて実験的に裏付けることができました。そして、その再生能力の根本にあるのがDHAR3とグルタチオンの協働であるというのが、私たちの結論です。

  1. アスコルビン酸再生不全株におけるアスコルビン酸生合成能力

 私たちが作出した変異株ラインの中で、もっともアスコルビン酸再生能力が低いのは∆dhar pad2であることもわかりました。pad2cad2はどちらも同じ遺伝子(GSH1)に変異を持ち、同程度のグルタチオン欠乏を示しますが、精密な実験からpad2のグルタチオンレベルはcad2の7割程度であることがわかりました。そこで次に、∆dhar pad2に注目してアスコルビン酸の生合成への影響を調べることにしました。この四重変異株ではアスコルビン酸のターンオーバーが促進しているため、野生株と∆dhar pad2のアスコルビン酸生合成速度を厳密に比較することはできません。そこで、アスコルビン酸生合成関連遺伝子の転写レベルと、鍵酵素であるGDP-L-ガラクトースホスホリラーゼ(GGP)の活性を評価しました。結果として、これらのパラメータが∆dhar pad2で低下するという結果は得られませんでした。また、アスコルビン酸の前駆体であるL-ガラクトースを処理すると、野生株と四重変異株のどちらも高濃度にアスコルビン酸を蓄積することができました(図4)。これらの結果から、DHARの欠損とグルタチオンの欠乏はアスコルビン酸生合成能力を阻害しないと結論づけました。すなわち、∆dhar pad2が強光下でアスコルビン酸を蓄積できない理由は、生合成への二次的な影響ではなく、あくまで再生能力の低下(=分解の促進)に起因するということです。また、L-ガラクトース処理により∆dhar pad2が高濃度のアスコルビン酸を蓄積できるという事実は、ストレスのない条件では再生能力が低くても植物はアスコルビン酸を蓄積できるという先の結論を強くサポートします。

  1. 結論とあとがき

 本研究では、葉緑体におけるDHAR3とグルタチオンの協働がアスコルビン酸の高蓄積に不可欠であることを明らかにしました。背景で書いているとおり、グルタチオンによる非酵素反応は細胞質のような中性環境では起こりません。光照射下の葉緑体ストロマではpHが8以上に上がるため、グルタチオンによる非酵素反応が起こりやすくなり、DHAR3との協働が可能になるのでしょう。その他、この協働がいつ生まれたのか?という進化的な面での考察(妄想?)も論文では展開していますので、興味あればご笑覧ください。

 本研究は濱田あかねさんの修士論文研究のメイントピックであり、記載されている全てのデータは彼女の血と汗と脇汗の結晶です。また、田中泰裕さんにはアスコルビン酸生合成の律速酵素GGPの活性測定方法を確立し、提供していただきました。ありがとうございました。濱田さんの修論研究のテーマはアスコルビン酸再生を超包括的に捉えるもので、これまでに洒落にならないレベルの組み合わせの多重変異株ラインを作出・整備してきました。どういうストーリーでも研究することができる基盤ができた状態で、たしか去年の初秋くらいにメイントピックのストーリーを構築し、それから恐るべき速度と精度でデータを積み重ねて今回の論文につながりました。ハマダゴイゴイスー!実は、濱田さんはもう一発タマを仕込んでいて近々小さい論文をサブミット予定。その結果まで含めると「グルタチオン依存のアスコルビン酸再生」という視点では、もはや僕たちに知りたいことはない!もうお腹いっぱい!というワケで、残るは「グルタチオン非依存」の経路になりますが、その理解に不可欠な多重変異株ラインは濱田さんによって作出済みです!しかーーーし、そんな彼女ももう修了。そして、丸田グループは異例の人材難(テーマ増やしすぎ)で再生研究凍結の危機!求ム、一緒にアスコルビン酸再生の研究してくれる人!カムバック、ハマーダ!